数多くの上京ソングを聴いてきたけど、これが一番かっこいい。───長渕剛「とんぼ」

楽曲レビュー

正直に言おう。上京をテーマにした曲は星の数ほどある。しかしその中で「とんぼ」ほど、聴くたびに背筋が伸びる曲を私は他に知らない。

コツコツとアスファルトを踏みしめる足音から始まるこの曲は、1988年、長渕剛自身が主演したTBSドラマの主題歌として世に出た。
オリコンでは5週連続1位、ミリオンセラーという結果を残した曲だが、そういう数字の話をする前に、まず伝えたいことがある。

この曲が描いているのは、故郷を離れ、希望だけを抱えて東京にやってきた若者の姿だ。
華やかに見える都会の裏側で、傷つき、押しつぶされそうになりながらも、それでも歩みを止めない。
そんな姿を、長渕は飾らない言葉で歌っている。

面白いのは、この曲が生まれた背景である。
当時の長渕は、人気歌手としての成功と、世間から押しつけられるイメージの間で、大きな葛藤を抱えていたという。「俺はこんなもんじゃない」という叫びが、この曲の芯にはある。誰かに与えられた自分ではなく、自分自身で在り続けたいという願い。
そこにあるのは、単なる望郷の歌ではなく、自分という存在をかけた闘いの記録だ。

あなたにも、覚えがないだろうか。誰かの期待に合わせて生きているうちに、本当の自分がどこにいるのか、わからなくなる瞬間が。

「とんぼ」がかっこいいのは、メロディや歌声だけの話ではないと私は思う。弱さを隠さずに歌いながら、それでも前を向く姿勢そのものが、聴く者の背中を叩いてくるのだ。
プロ野球選手が入場曲として選んだというエピソードも、決して偶然ではないだろう。この曲には、闘う人間の呼吸が刻まれている。

上京というテーマは、時代によって形を変えながら、今もどこかで誰かの現実であり続けている。だからこそ、この曲は古びない。

もし今、自分の足で立っているのかどうか、少し自信が

なくなっているなら。「とんぼ」を聴いてほしい。コツコツという足音は、きっとあなたの中にもまだ残っているはずだ。

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